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映画「イン・ザ・ハイツ」:NY発、望みは思いもよらない形で叶う!

「イン・ザ・ハイツ」:数々の賞を受賞したミュージカルが映画化

最近、日本より一足早くアメリカで公開されたミュージカル映画「イン・ザ・ハイツ(In the Heights)」を観てきました。数々の賞を受賞したミュージカル「ハミルトン」、「イン・ザ・ハイツ」を作った、リン=マヌエル・ミランダの作品です。日本では2021年7月に公開予定だそう。

映画の舞台はニューヨーク。ニューヨークは、多くの人が夢に見る、憧れの街であるかもしれません。またニューヨークに夢を叶えに行く人も多いはず。かつて、私のその一人でした。この映画は、ニューヨークに生まれ育つドミニカ系移民の若者達が、「成功したい、夢を叶えたい!」と期待を胸に、様々な苦難に直面しながら生きていく物語。さらに主人公の青年は、祖先が育ったドミニカ共和国にいつか戻ることを夢見て、日々を生き抜く物語でもあります。予告編はこちらから。

ドミニカ系移民が暮らすワシントン・ハイツ

映画の舞台はニューヨークのワシントン・ハイツ(Washington Heights)。マンハッタンのハーレムよりもさらに北にある170番台の地区にあたるこの地域では、ドミニカ共和国プエルトリコ出身の人々が多く暮らしています。

ワシントン・ハイツの位置

映画の主人公であるウスナビは、小さい頃に両親とともにドミニカ共和国からニューヨークへ渡り、ワシントン・ハイツで育ったのでした。ワシントン・ハイツにはじめに来たとされる、直接血の繋がらない、クラウディアおばあちゃんの世話をしながら、彼は街の一角にある食料品店(Bodega)を営みます。そんな彼の夢は、いつかドミニカ共和国に渡って、両親がかつて経営することを目指した海辺のバー・レストランを修復し、オープンさせること。

ウスナビが働くBodegaにて 出典:Filming locations

彼が思い描く海辺のバーは、何度も映画に登場し、ウスナビの心に深く刻まれた記憶と想いであることが伺えます。そんなウスナビが恋に落ちる女性、地元のヘア&ネイルサロンに勤めるヴァネサもまた、ワシントン・ハイツ地区を出て、ファッションデザイナーとしてニューヨークのダウンタウンで活躍することを夢見ています。

登場する店の看板やサービス、人々の会話などには、これらの地域で使われ、話されるスペイン語を反映していて、まさにこの地域で暮らす人々の日常生活の様子をよく映し出しているようです。家族全員が集まって食事をするシーンや地元のレストランでは、ドミニカ共和国やプエルトリコなどの国々の伝統的な料理がたくさん出てきます。通りで、Piragua(かき氷)を売るおじさんは、実は作家リン=マヌエル自身でもあります(笑)。ラテンアメリカが好きな人、特にこれらの国を訪れたことのある方にとっては、懐かしい味が思い出されること間違いなし

さらに一つ一つのシーン、登場人物の心境を表した歌詞、曲のどれもが素晴らしいです!暑い夏に地区全体が停電した際に、コミュニティのみんなが集まって踊るシーンに使われたCarnaval del Barrioはとても印象的。

Carnaval del Barrio 出典:In the Heights Review

富裕層化するラティーノ移民の居住地区

夢に向かってひたすら挑戦するエネルギッシュな若者達の姿が描かれる一方、ワシントン・ハイツのようなラテンアメリカからの移民が居住する地区が、近年直面する現実も描かれています。それは、都市の再開発などによって、地価や物価の高騰化により、地区全体が富裕層化していくこと。英語でジェントリフィケーション(gentrification)と言います。この現象はニューヨークに限らず、多くの大都市で起こり、古くから住んでいる移民の人々の生活を困窮化させています。

ワシントン・ハイツ地区でも、この再開発により、ヘア&ネイルサロンの経営主は家賃が支払えなくなり、お店を閉め、より遠くのブロンクス地区への引越しを強いられる場面があります。さらに、この地区に新しくできたクリーニング専門店では、「シャツのクリーニング代が10ドル近くもするのよ!」と人々が会話する場面なども出てきます。私が数年暮らしたワシントンDC市内でも同じような現象が起こっています。庶民的な食品店がある日店を閉め、数ヶ月後にはオーガニック系の小さな食品店となり、その結果日用品の価格が3-4倍になることも珍しくありません。この映画では、その地に長く暮らした人々が、土地の高騰化等により長く暮らした地区を離れ、移民コミュニティが分散していく様子も描かれているように感じました。

心に描いた望みは、思いも寄らない形で叶う!

ドミニカ系の移民の人々が、心に秘めた夢を叶えるために行動する様子を見て、「望みは、必ずしも心に描いた形ではなくても、想い続ければ叶う!」というメッセージが私の心に響きました。

主人公、主人公を取り巻く登場人物も、みんな「こうなりたい!これがしたい!」という望みを持って生きています。経済的な余裕がないこと、移民であることによるステレオタイプ、土地の高騰化、永住権を持っていないことなど、数えたらきりがないほどの数々の障壁に直面する中、みんな希望を持って前に向かって進んでいる。結末についてはこちらでは書きませんが、希望を持って生きていると、その望みは思いもしない形で叶うということをこの映画は見せてくれた気がします。

この記事を書く私自身も、かつてニューヨークに留学する切符を手にしたまま、ニューヨーク行きを直前に断念したことがありました。当時はとてつもなく残念な気持ちでしたが、その数年後にアメリカに就職することとなりました。ニューヨークに留学し、そこで培った専門性を活かしてキャリアを築くという当時の夢とは異なる形になりましたが、今振り返ると、当時の望みは叶っていると思います。

「イン・ザ・ハイツ」は、素晴らしい演技やミュージックとともに、観る人を励まし、未来に向かって歩んでいく私たちの背中を押してくれること間違いなし!いつか、このページでニューヨークで私が訪れたことのあるラティーノ移民が多く居住する地区の紹介をしようと思います。お楽しみに!!